当主の足音が遠ざかり、玄関の大広間には楓とタマと他の使用人達が残されていた

楓は足に力が入らないようでまだ立てずにいた

タマは楓のそばに近寄り楓に手を貸す

タマ『楓様、起きあがれますか?』

楓はタマの手を受け取りよろよろと弱々しく立ち上がった

楓『ねぇ、タマ、タマの名前を知ってるといえばハナのようになるの?』

タマ『…』

タマはそれに黙ってうなずいた

ハナは、楓兄に付き添うようにと言われた日に、タマに伝えていたことがあった

ハナ『楓様と2人きりのときはタマと呼ばれる事を受けいれてあげて、それが楓様の安心感に繋がるから』

ハナはそれをタマに伝えたあと、楓に改めてタマを紹介しに行っていた

その時の楓は2人だけの秘密じゃなかったことが不服だったのだろう、機嫌を損ねてしまったが、タマにたくさん遊んでももらっていたので、それを受け入れるのに時間はかからなかった

だからこそ、その秘密の重さについて深く考えたことは楓にはなかった

楓『私がハナって呼んだから?だからお父様は怒ったの?』

状況を理解しているようで、でもまだ頭がついていかないのであろう、楓はタマにたたみかけるように聞く

周りにいた使用人達も、タマと呼んだ楓に気づきはしたが、誰も何も言わず何事もなかったかのようにいなくなっていた

タマは心の中で周りの聞いていたであろう使用人達に感謝をする

そしてタマは重い口を開けた

タマ『恐れながら…旦那様は仕えているものたちが、仕えさせていただいてる人と心を通わせる事を良く思ってはおりません、色んな事が平等にならなくなるからと、そして誰かに心を通わせてしまえば、そこから何かしら歪みが生まれてしまうものだからと』

まだ中学生になるかならないかの楓にはそれを理解するのは少し難しいようだった

楓『仲良くなっちゃだめってこと?』

楓が精一杯考えたこたえはこれだった

タマはそれにうなずいた

楓『じゃあもうハナに会えないの?』

タマ『…』

タマもその言葉を聞き辛そうだ

仕事が完璧なハナのこと、使用人頭を首にされても難なく他の仕事はできるだろう

だが道明寺家の当主の怒りをかって辞めさせられたというレッテルがハナについて回るようになる
そんなハナを雇うような職場は、まず、ない

道明寺財閥は総資産は数千億、世界に名を轟かせる大財閥の一つ

その財閥に楯突く事ができる企業もほとんどいない

楓は何もする気力が沸かずそのままタマに連れられ自室に戻り泣くしかできなかった

そして夜がきた

屋敷の奥深くから道明寺家当主が玄関へと向かってくる

また慌ただしく屋敷のもの全てが玄関に集まった

そこに楓の姿はもうなかった

玄関の扉が閉まり、当主が車へと乗り込んだ

当主を乗せた車はゆっくりと屋敷の玄関から外玄関に向かう

外玄関の少し手前、車がいつも一時停止する場所がある、それはその一時の間に部下達が外玄関や外に何も異変がないか確認するためである

そしていつもどおり車はその場所で一時停止をした

その停止した瞬間に、車の運転手から驚いたような声があがった

運転手『!!…あれは』

運転手は何かを確認したのちクラクションを短く鳴らした

玄関から外玄関の周りを確認していた部下達が一斉に車に駆け寄った

だが部下達の駆け寄る足が車にたどり着く前にとまる

車の目の前、道のど真ん中に、土下座をしたままのハナがいた

部下に連れ出され、とっくに外に追い出されていたであろうハナの姿が屋敷内のそこにあるのは大変なこと

ハナが元使用人頭だったからこそできたことではない、道明寺家のセキュリティーは素晴らしいものなのだ

誰かの手引きがあって屋敷内にはいれたのであろうか、なぜそこにハナがまだいるのか

運転手は車の窓を開けハナに声をかけようとした、がそれより早くハナのほうが叫んだ

ハナ『戦後、路頭に迷っていた私を拾い雇ってくださった大恩ある旦那様、私は旦那様にその時、生涯心から仕えたい、仕えていきたいと誓いました。旦那様!!旦那様の大事なお嬢様と心を通わせてしまったこと、旦那様には申し訳ないと思っております、ですが…ですが!!』

ハナの声に涙が混じる、だが涙をふくこともせずにハナは叫ぶ

ハナ『お嬢様のこと、私の命よりも大事と思っております!!その思いは、ダメな事とは私は思いません!!どうか…どうか!!お嬢様のおそばに仕えさせてください!!私は何からもお嬢様をお守りしていきたいのです!!』

運転手、周りの部下達はハナの悲痛な叫び声に、涙が溢れ出ていた

当主に気づかれまいと誰もが声を殺し泣いていた

いつもの当主ならばとうに車を発進させていただろう、少しはまだ人の心があったのか、あたり一面静かだったそこに、車のドアが開く音が響く

途端に緊張がはしった

当主は車を降りゆっくりと歩き出し、土下座をしているハナの目の前へと行きハナの頭の前で立ち止まった

ハナは恐怖を感じたが、不思議と心はすっきりとしていた

ハナ『もしかしたら殺されるかもしれない…いや、飛ばされる…が正解かしら…でも私は今…嘘はついていない、楓様と心を通わせたこと、後悔していない』

ハナは心の中でそう思い考えていた

そして覚悟をしたのか、ハナは土下座をしたままゆっくりとまぶたを閉じる

殴られても文句はない、そういったような表情だった

だが当主から出た言葉は誰もが意外なものだった

 

道明寺家当主『己の命よりも大事…そういったか?』

ハナはその問いに驚いて目を開ける、そしてそのまま力強い目をして旦那様の方を見上げ、答えた

ハナ『!!はい!』

ハナの目からは本物の決意を感じられる
そんなハナの目を見た当主はこうこたえた

当主『アレが行方不明な理由は、2つの推測がある。ひとつは自分で行方をくらませた、もうひとつは、誘拐』

当主の言葉にハナだけではなく周りの部下達にも恐怖がはしった
当主がいうアレとは、行方不明になった楓の兄のことだ

当主はハナの返答を待たず続ける

当主『アレの字で探すなという書き置きはあったが、同時に我が社に脅迫状も届いていたと報告はあがっている、だがわたしはそれに時間は割いてはいられない、次の後継者には二番目の楓に、と決めた。また誘拐されては時間がもったいない、お前の身でそれを守れるか』

当主の言葉に驚きを隠せないハナと部下

だがハナはいち早く状況を理解しこうこたえた

ハナ『お嬢様を、後継者にとのことですね…私の命のかぎり、お守り致します!!』

当主『…では、再度チャンスをやろう、一つ、命をかけ跡継ぎを守ること、2つ、婚約者以外の男を二番目に寄せ付けないこと、3つ、アレの行方の手がかりを何か一つでもみつけてこい、1ヶ月以内にだ、できるか』

当主のその問いかけに悩むことなくハナはこたえた

ハナ『できます!!』

その答えを聞き、当主はじゃあすぐ戻れというように手を一度挙げた

それを見てハナはいきおいよく立ち上がり、旦那様へと身体が折れるのではといったようなお辞儀と感謝の言葉をのべ、すぐに屋敷へと走って行った

☆☆☆

続く

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