楓は自室のベットに腰をおろし、そのまま横になる

 

泥のように重い身体の感覚を感じるが、一向に眠れそうにはなかった

 

ハナ「楓様、お飲み物をお持ちいたしました」

 

楓「…そこに置いておいて」

 

ハナ「…わかりました」

 

ある日を境に、ハナと楓の距離も開いたままだったがハナはそれでもずっと楓のことを実の母親のように常に気にかけていた

 

楓の負担にならないように、楓のことを考え、いつも楓の自室を休めるように綺麗に清潔に整えていたのもハナだった

 

ハナ「失礼いたしました」

 

ハナがお辞儀をし、部屋を出ようとする

 

その時、ふと楓はハナの足が気にかかった

 

ハナは少し足を引きずって歩いていたからだ

 

楓「ハナ、足首どうしたの?」

 

ハナ「…お見苦しいものをお見せして申し訳ありません。一昨日転んだ際に足首をひねったようで…」

 

楓「それを早く言いなさい。ハナ、1週間の休暇を与えるから治してきなさい」

 

ハナ「ですが…」

 

楓「…その足で仕事されても迷惑です。すぐに病院へ向かうように」

 

ハナ「…わかりました。ありがとうございます、楓様」

 

楓の物言いはとても冷たくきついものであったが、それは楓なりの優しさでもあった

 

だが、冷たい物言いに隠されて、その優しさに気付けるものはとても少なかった

 

でも、ハナはその楓の優しさに気づくことができる唯一の人間だ

 

ハナの心の声(私の性格なら、普通に休めと言われても休めなかった…迷惑だといわれて、確かに仕事に差し障るから休まなくてはと思えた。楓様は冷たくなったと言われているけど、やっぱり楓様はとても優しい)

 

ハナはそう感じ、目頭に熱いものがこみあげてくる

 

もう扉が閉まっている楓の自室の方に、ハナは静かにもう一度感謝のお辞儀をするのだった

 

ハナが休暇にはいり、館をでる

 

そこから3時間後、屋敷に車が次々と入ってくる

 

車の中から現れたのは、道明寺家当主と光陽だった。光陽の後ろには西田もついてきていた

 

ただごとではないその様子に、タマが気づき、すぐに楓の自室の扉を叩く

 

楓はまだ眠れずいたので、すぐさまタマに反応し、道明寺家の玄関へと向かった

 

ちょうど、玄関ホールで、楓と当主と光陽が鉢合わせる

 

楓「一体何が…」

 

楓はそう思うが、あることに気づいた

 

当主「…」

 

光陽「……」

 

西田「楓様、すぐにご準備を」

 

そう、三人とも、喪服姿だったのだ。

 

楓は何か言われた訳ではないが、すぐに何があったのか理解した。

 

楓「…すぐに…準備いたします」

 

光陽「…通夜の後は密葬になる。19時からだ。私たちはこれから清宮家の方にバレないように向かわなくてはならないが、なんとかなる。でも君にはいつも記者が張り付いているから、あえて19時以降にゆっくりと【準備】して向かってきて」

 

楓「…わかりました…私も準備でき次第すぐに…向かいます」

 

楓は歯を噛みしめながら、すぐに自室へと戻った

 

タマが慌ただしく喪服の準備をはじめる

 

だが先ほど光陽が楓に言った【準備】という言葉には、優しさもこめられていた

 

【19時までにはまだ時間がある。心の準備もしておいで。】

 

光陽は楓への言葉に当主にバレないよう、言葉に優しさを隠してそう伝えたのだった。

 

楓は自分の服を脱ごうとした

 

楓「…手が、震えて…」

 

だが後ろについているチャックが手が震えてうまくおろすことができなかった

 

楓「……太陽」

 

震えた手を自分の目の前へと持ってくる

 

次々と太陽との思い出が頭に浮かんだ

 

イタリアではじめて会った時の事

 

料理が趣味だからと、イタリアでたくさん料理を一緒に作ったこと

 

日本に帰ってきた後も、たまに一緒にカフェテリアスペースでランチを食べたこと

 

パーティーの不知火との事件の時に、不知火に対してものすごく怒ってくれたこと

 

事件後、腑抜けになってしまった自分に変わらず接してくれたこと

 

いつも笑顔で元気だった太陽が、卒業プロムで突然キスをしてきたこと

 

それに何も答えることができなかったこと

 

そのまま、疎遠になって、太陽は自分のことを嫌いになったのだと思っていたのに

 

会社への襲撃事件の時に、世間への手前、表にでてきてはいけないのに、乗り込んできてくれたこと

 

そのまま、言葉をかわすこともなく、お礼を言えたわけでもなく、天へと昇ってしまったこと

 

楓の感情が、爆発しそうだった

 

そして激しい自責の念にかられてしまった

 

楓「会社へと…太陽を刺した者たちを手招きしたのは…わが社の重役だった。私を騙してきたあの日、有無を言わさず首にしておけば…」

 

楓は、そのまま壁を思いっきり殴った

 

楓が物を殴るのははじめてだった

 

タマ「楓様!!!!」

 

喪服を運んできたタマが音に気付き、慌てて楓の部屋へと入ってくる

 

タマ「血が!!!」

 

楓「触らないで!!」

 

タマ「楓様…」

 

楓の手からはだらだらと血が流れていた

 

楓「……この程度の血で、騒がないで」

 

タマ「…楓様………」

 

タマの目も、真っ赤に染まっていた

 

タマも太陽のことは知っている。タマも喪服を準備しながら一人涙を流していたのだった。

 

楓は自分の血を改めて見て、自身の服で雑にぬぐった

 

楓「太陽…痛かったでしょうね…もう、痛くはなくなったかしら………太陽、ごめんなさい。ありがとう」

 

そして楓はその場で小さくそうつぶやいた

 

タマ「楓様……」

 

タマにも聞こえないような小さな声

 

だがタマは聞こえなかったとしても、今楓が何を想い、どう感じて誰に言葉を発したのか、理解できてしまうのだった

 

そして、楓の心の準備ができる

 

静かな夜だった

 

シンとした冬の風が吹く夜に

 

清宮太陽は、天へと還っていったのだった

 

 


 

 

今日も読んでくださってありがとうございます(*^-^*)

ランキング参加中です!応援お願いします!

にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ

道明寺 楓 ~ 鉄の女 一覧

シリーズ一覧

最新記事

シリーズ

ブログ村