昔、太陽に料理を振舞ってもらったダイニングで、今度はセイを待つ楓

 

楓「………」

 

楓の頭の中にはたくさんの思い出が駆け巡った

 

楓「………駄目ね、変に考える時間を持つと…」

 

楓の目頭が熱くなる

 

セイを待つ間、太陽の笑った顔が、楓の頭から離れようとはしなかった

 

セイ「お待たせ」

 

楓「…セイが改まってお願いしたいことって…いったい何?」

 

セイ「ん?…これだよ」

 

楓「これって……」

 

楓はセイが押してきたワゴンに視線を移す

 

セイ「俺の作った料理、食べてもらおうと思って、それをお願いしたかったんだ」

 

楓「っ!」

 

楓はセイの言葉に驚きセイの顔をハッと見上げた

 

楓「…………美味しそうな良い香りね。ありがとう、是非いただくわ」

 

セイ「良かった。結構自信作なんだ」

 

そうしてセイはおひたし、お味噌汁、煮つけなどを食卓に並べた

 

楓はゆっくりとお味噌汁を飲む

 

楓「…………」

 

あたたかく身体に染み渡るその味は、出汁がきいてとても美味しいお味噌汁だった

 

楓「……」

 

楓は無言のまま、すべての料理を綺麗に食べ終えた

 

楓「…………ご馳走様でした、とても、良いお味でした」

 

楓の目から涙が流れ落ちる、楓の食べた食器をワゴンへと片付けながらセイがぽつりぽつりと話し始めた

 

セイ「………一度、太陽にどうしてもって頼まれて料理を作ったことがあるんだ。あいつに味噌汁食べさせてさ、うまいうまいってあいつ喜んでてさ。そこから別に料理なんて興味なかったんだけど、太陽が死んでから、あいつがうまいうまいって食べてた顔ばかり思い出すようになっちゃって……もうあいつは食べれないけど、その日からなんとなく、料理するようになってさ…………今じゃ、太陽みたいに、料理が好きになっちゃって、太陽が俺に少しのりうつってるんじゃないかって心配になるくらい、料理が楽しくなっちゃったんだ」

 

楓「…………そう、だったの…………」

 

セイのその話に楓は嬉しそうにほほ笑んだ

 

セイ「これだけ料理が好きになるなら、もっと早くはじめて、太陽とたくさん料理すれば良かった」

 

楓「……私も、また会えるなんて思わずに、もっと話に、会いに行けばよかった」

 

セイも、楓も、お互いにたくさんの後悔があった、でも、もうそれを取り戻せないことも、お互いは知っていた

 

楓「……食べさせてくれて、ありがとう」

 

セイ「こちらこそ、食べてくれて、ありがとう」

 

楓はううんっと首を横にふった

 

楓「ねえ、気になったのだけれど、セイはここに何度か来ていたの?庭園に花も増えていたし…」

 

セイ「道明家当主にお願いして庭園を造らせてもらった身としては、そりゃあ足を運ぶさ」

 

楓「言ってくれたら良かったのに」

 

セイ「……君はもう既婚者だからね、頻繁に会ったら世間は友達とは見てくれなくなる」

 

楓はセイの言葉に、まだ心臓がツクンと反応してしまうことを知った

 

楓「………当主…お父様にがね、余命の告知を受けたようなの、それで…」

 

セイ「知ってる、後継ぎも、君は頑張らないといけないんだろ」

 

セイの言葉にまた楓の胸が痛みを感じる

 

楓「セイは私より早く、色々知ってるのね」

 

セイ「道明寺家当主とは海外で頻繁に顔を合わせているからね」

 

楓「………それもそうよね」

 

セイ「後継ぎ…か」

 

楓「……」

 

改めてそう言われ、楓の顔が赤く染まる

 

セイ「………今までも疎遠だったけれど、これを最後に、本当にもう君と会うのはやめる、本当はそう伝えようと思って、ここに君が来るように仕向けたんだ」

 

楓「………」

 

楓はなんとなく、そう言われてしまうのではないかと、なんとなくだけど感じていた

 

セイがそんなような素振りをしてたわけではないけれど

 

セイの手料理を食べた時、もしかしたらこうして会うのはこれが最後かもしれないと、楓も感じてしまっていたからだ

 

セイ「………これからの道明寺家の仕事は俺の側近に頼むようにする、取引はやめないから安心して」

 

楓「……ありがとう」

 

セイが決めたこと、楓は拒否することもなく、そのまま受け入れた

 

もう、この二人は、友達として会える立場でもない

 

本当は一緒に遊びたい、会いたい、気兼ねなく昔話をしたい、そんな感情は、この二人には叶うことがないことだからだ

 

楓「あの事件をおこした犯人たちは、清宮家とは関係がない者として処理をしたわ、清宮の名は汚さずにすんだわ」

 

セイ「………そうか」

 

楓「光陽さんも、事件を気にかけて離縁を申し出てきたわ。でも光陽さんはもう清宮家に捨てられているようなもの、離縁をしたとしたら…」

 

セイ「………やはり清宮家の後継ぎが目的だったのか…と、また揉めるな」

 

楓「光陽さんは、優しく良い人よ、だから、私は大丈夫」

 

セイ「そうか…」

 

お互いに、何かを問うわけでもないけれど、お互いに何を知りたいか、聞きたいのかをなんとなく理解できる、二人はそんな関係だった

 

もう日は暮れて、別れの時間が近づいている、二人は名残惜しむように、たくさんの話をしたのだった

 

庭園に咲いている花は、セイが一番好きな花な事

 

セイは和食作りを極めたいと思っていること

 

楓も、仕事の事、趣味をする時間もないこと、でも太陽やセイのように好きなものをいつかみつけたいと思っていること

 

そんな他愛ない話やセイの庭園を散歩したりして、二人はたくさんたくさん、話すのだった

 

そして、別れの時刻がやってくる

 

セイ「それじゃあ、俺はイタリアの社に戻るかな」

 

楓「……これで、さよなら、ね」

 

二人は、あの庭園の裏口へと来ていた

 

楓「西田は途中で帰らせたから、久しぶりに歩いて家に帰るわ」

 

セイ「俺は、そろそろ迎えが来るかな」

 

楓「それじゃ…」

 

セイ「………あの日みたく、途中まで送るよ、ここは道明寺家敷地内だから、変な記者も入ってこれないだろう」

 

楓「……ありがとう」

 

そしてセイと楓は裏口から出て、楓の滞在先の別荘へと移動をはじめる

 

セイ「……もし、今後、君が困った時、どうしても力が必要になった時、その時はもう一度だけ会うよ。君の力になる」

 

楓「……セイ………」

 

二人の歩く足が止まる

 

セイ「……きっと君は気づいてただろうね、太陽が君を好きな事」

 

足を止めたセイが楓の顔を見て、そう伝えた

 

楓「……」

 

楓はその問いに答えなかった、もう二人の間にその答えはでていたからだ

 

セイ「……俺も君が好きな事、気づいてた?」

 

楓はセイの言葉に顔をあげる、だけれどその言葉に楓はもう、答えることはできない

 

楓「…わたし……」

 

セイ「………勝手だけど、後継ぎを産む君を祝福できるほど、まだ君を、忘れていないんだ」

 

楓「……………」

 

セイ「年月的には、少ししか一緒にいなかったはずなのに、君といるとひどく落ち着けた。それはお互いに、跡取り同士で、TOPの責任があるからだったような気もしてる」

 

楓「……私も、セイや太陽といると、笑えたわ、落ち着けた。私になることができたわ…」

 

セイ「でも、TOPに立つ者同士、もう個人の感情を、捨て置かないといけない」

 

楓「ええ…………」

 

二人の間を、少し冷たくなったイタリアの風が通り過ぎる

 

そして二人は無言のまま、静かに顔を寄せ、唇を重ねた

 

これで、最後、どうしようもない、二人の愛の終わりだった

 

どちらからともなく、自然と、唇を重ねたのだった

 

唇が離れ、吐息のかかる距離でセイはこう告げた

 

セイ「………幸せに」

 

楓「……あなたも……愛してたわ」

 

セイと楓は、きつく抱きしめあった

 

そしてそのまま言葉を交わすこともなく、二人は別れるのだった

 

楓は、この日、【楓】をこの場に置いてきた

 

もう覚悟はしていたけれど

 

改めて【道明寺楓】として生きる、辛く長い孤独の戦いを、強く強く、覚悟した日だった

 


 

 

 

今日も読んでくださってありがとうございました( *´艸`)

 

拍手やメッセージも嬉しいです!!ありがとうございます♪

 

 

 

 

 

 

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