優しくて穏やかな性格の光陽
この人となら…そう考えた楓は自分の中である決断を導き出した
楓「…光陽さんさえよろしければ、私は私たちの子を後継ぎにしたいです。もちろん、光陽さんのお身体のほうが大事ですが、無理のない程度で、考えてはいただけないでしょうか?」
光陽「え……」
思いがけない楓の言葉に光陽の表情が固まる
だがすぐに慌てたように光陽はこう返した
光陽「そんなことを女性に言わせてしまって…なんて私は不甲斐ない…こちらこそ、楓さんさえよければ、よろしくお願いします」
光陽のこの言葉に、楓は営業用の笑みを浮かべこう答えた
楓「こちらこそ、よろしくお願いします」
楓の笑みが営業用であること、光陽が見逃すわけもない
後継ぎを作る事、それは仕事なのだ
この日、二人は後継ぎを作るという契約を交わした
もちろん、道明寺当主の身体のこともある
当主亡き後の混乱を防ぎ為、後継ぎを作るのは当主亡き後と契約した二人だった
そしてこの契約後数日も立たずに、当主が倒れ入院したとの情報が二人の耳に入る
もちろん当主のそばに行こうとは思うが、当主が倒れたとなるとかわりに仕事ができるのはこの二人だけ
二人はすぐに当主のもとへと駆け付けることなど到底できない
やっと楓が当主の入院施設へと行けたのは、当主が亡くなる一週間前の事だった
楓「………」
楓がやっと会えた時、当主は色んな管に繋がれて、やせ細った姿でベットへと横たわっていた
ピッピッピと心電図の音がやけに部屋に響いていた
楓「……」
楓は当主の顔を眺め、もう当主は話すこともできないとわかる
楓「……あっけないものね」
楓はそうつぶやき、窓の外を見た
楓「……数百万の社員を抱え、TOPとして走り回っていても、最期は誰もいないベットの上で一人で亡くなるのよね」
楓は、父親の姿と楓の未来が重なって見えた
楓「……」
楓はそうつぶやいたあと、静かに椅子へと座り父親の手を握る
楓「……覚えている限り、はじめて触れたわね」
やせ細り管がつくその手は既に人の体温すらない
楓「………」
思えば、自分の父親もただの人間だったのだ
昔から続く道明寺一族、そのすべての責任を担い、一人走り回っていた自分の父親
今は自分もその立場ではあるが、同じ立場にたったからこそ
TOPゆえの孤独感、責任感、感情を理解できた
家族としては成り立たなかったかもしれない、でも尊敬できる人ではある、楓はそう思うのだった
楓「……お父様、長い間、お疲れさまでした。先にいって待っている母と、この世でできなかったことを、二人で楽しんで…」
そう楓が手を握りながら当主へ向けつぶやいたとき、かすかに手が動いた
楓「お、お父様?!」
当主「……」
もう動く力はないであろうその手が力強く動き、当主は自身の胸元に手をつっこみ手紙を取り出した
その手紙を楓の方へと渡し、目も開けず動いていた当主は疲れたのか、もう手すらもぴくりと動かない
手紙を渡された楓は、驚き何度か大きな声で当主を呼ぶ
だが、もう当主が反応することはなかった
楓「……お父様、私はもう仕事に戻らなくてはなりません。またここへ来ます」
手紙をその場で読みたかったが、もう遅れてはならない重要会議の時間もせまっていた
そのため、楓は当主にそう伝え、入口に控えていた西田とともにその場を去った
当主にも側近が付き添っていたが、楓が来ている間、その側近達は病院のロビーへと控えていた
楓がロビーに戻り、側近たちと楓が挨拶を交わす
そうしてその側近達にも見送られながら楓が去る
そしてその側近たちが部屋へと戻ってくるわずかな合間に、当主の心電図の音が止まった
もしかしたら楓に迷惑が掛からないよう、死ぬのすら、なんとか遅らせようと気力をふりしぼっていたのかもしれない
道明寺当主、父親としては最低だが、仕事では素晴らしい功績を残し、道明寺家を更に大きくし、新しい事業も次々と成功させていった男は
この日誰かがそばにいることもなく、一人、天へと還っていったのだった
父親としてなにひとつしてこなかった当主だが
最期に娘に会えた事が、本当はとても幸せだったのかもしれない
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