女の赤ちゃんが生まれ、楓は複雑な心境を抱えていた
楓「女の跡取りは…駄目よ」
光陽「???いいじゃないか、君だって立派な会長なんだから」
産婦人科でそんなやりとりがあった
光陽は女の赤ちゃんを喜んでいたようだが、楓はずっと浮かない顔だった
赤ちゃんと一日も過ごせずに、光陽は仕事でアメリカ本社へと戻り、楓は自宅へと赤ちゃんとともに帰る
もちろん帰宅時の写真も週刊誌が撮影していた、その撮影時間や場所も、記者とは打ち合わせ済みだ
各メディアは、次世代も女社長か?!などといったタイトルで、道明寺家の跡取りと思われる子供の誕生を皮肉たっぷりにお祝いしている
楓「……娘は?」
自宅に帰宅した楓が、ハナやタマにそう聞いたが、産後直後の楓は有無を言わさずにベットへと寝かせられた
道明寺家にはすでにベビーシッターも雇っており、楓はハナやタマに、産後はお体をたくさん休むようにと言いつけられ、ほぼほぼ赤ちゃんと触れ合うことはなかった
そして部屋で休む楓はある事を思い出す
楓「そうだわ…名前」
楓は子供の名前をつけなくてはいけないことを思い出したのだ、そしてその時楓にふとあるものが目に止まる
楓「……あら?この花は…」
部屋で休んでいた楓は、部屋に飾られていた花の存在に気づいたのだった
楓「今日は生け花なのね、この花は…セイが庭園にたくさん植えていた花と同じだわ…確か名前は椿…」
楓は生けてある花びらに触れながら、セイとのイタリアでの出来事を思い出す
少しだけ瞼を閉じ、セイへの想いがまだ残っている心臓の痛みを楓は感じた
だが、楓はそれに気づかないふりをする
楓「…光陽さんは、私の名前が楓で、自分の名前も光陽だから、紅葉になれるとおっしゃってた。私の名前や人生は、楓の葉のような人生だけれど、せめて子供には、花のある人生にしてあげたいわ」
楓はそう思い、女の子の名前を【椿】に決めた
もちろん、光陽に先に名前の相談をしたが、光陽は二つ返事で、君の好きな名前にするといいよと言ってくれたのだった
そして産後でも、道明寺楓はおちおち休んでもいられない
楓は早めに職場復帰をしなければならなかった
だが自宅にいた間に少しだけでも娘に触れ合える時間はあった
だが、楓は触れ合おうとはしなかったのだった
ハナ「楓様、職場に戻られる前にたくさん抱いてあげてくださいね」
楓「…私はいいわ」
タマ「楓様、母親の愛は大事なんですよ?」
楓「部屋へと戻ります」
楓は、ある事を考え、極力子供と接するのを避けた
だがその行動は、楓を冷たい女だと思わせるのに十分な行動だったのだった
楓はこのころから、屋敷で働く人たちからも、冷たい女性と思われていくようになる
楓のことをまるで自分の娘のように思って見守っているのは、屋敷の中でもタマとハナだけになっていくのだった
そして楓がどうして椿を抱かないのか
それは…
楓の心の声(…いつも一緒にそばにいれるわけでもない、変に母の事を覚えてしまっては娘も辛いでしょう…あの子のそばにいられない私なのだから、育ててくれる者たちに懐いてくれた方がいい)
そう、楓は普通の母親ではない
もうすぐ職場復帰だ
そうすると娘の顔を見れるのは半年のうちに数回程度だろう
そうなってしまうと、変に娘に情をもたせないほうがいい、そう思うのだった
だが、もうひとつ
楓は、抱いてしまうと仕事に行きづらくなる、母親として離れがたくなる、だからこそ冷たくするしかない
そんな、辛く悲しい決断をしなければいけなかったのだった
女のTOPは、母親にはなれない
母親は、娘が優先だ
だが楓は、そうはいかないのだ
楓は母となり、亡くなった当主の親としての気持ちをひとつ、理解した
楓は職場復帰の前日に、ただただ行き場のない母としての想いを、空へと投げ捨てたい感情でいっぱいになってしまうのだった
今日も読んでくださってありがとうございました( *´艸`)
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