類は車を箱根に向かわせた
いかにもな高級旅館につくしの開いた口が塞がらない
つくし「………」
部屋についても、呆気に取られているつくしの表情を優しく笑って類は見つめていた
つくし「いやいやいやいや…おかしいでしょ?!」
類「……何が?」
つくし「温泉っていったら、こう、おばちゃんたちが桶もってざっぱーんと…ねえ?!」
つくしが身振り手振りで桶をもったおばちゃんの物まねをしている、その姿を類は笑って眺めていた
類「ここ、小さなころに親と何度か来たことがあるんだ」
つくし「へ、へええええ~おぼっちゃんの花沢類も、家族旅行とかするんだね?!でも、ちょっとここ凄すぎない?!」
つくしが驚くのも無理はない、和モダンといった旅館の外観は、すべてが高級感に溢れていてキラキラと輝いて見えた
類「……そんなに緊張しなくていいよ。ゆっくり温泉でも入って、疲れとろうか」
つくし「え?!あ、う、うん!」
落ち着かないつくしは洗面所に置いてあった浴衣と用意されている籠の温泉バックをみつけ目が輝く
つくし「ああ~でも高級旅館でもこういうものが置いてあるんだね!!!なんか…落ち着く…ん?」
つくしは籠の中身と浴衣の生地、タオルのふわふわ具合に気づく
つくし「これ………もしかしたら全部………」
類「……気にせず入っておいでよ、それとも一緒に入る?」
つくし「?!なにいってんの!?!一人で、い、いってきます!!!」
類「うん、いってらっしゃい」
すっかり類のペースにはめられたつくしは、真っ赤な顔して慌てながら温泉へと一人向かった
一人部屋に残された類は、深く長いため息をつく
類「はあ…なにやってんだ俺は…」
類も、自分自身にびっくりしていた
あきらに応援され、つくしを落ち着かせる隙を与えるなと言われ、焦ってつくしを追いかけてきたはいいが、まさかこんな流れになるとは自分でも思っていなかったのだ
類「……なんで俺、温泉なんていっちゃったんだろ?」
類は自分の行動を面白く感じ笑いだす
類「だめだ、俺もテンパっちゃっうと牧野みたく何を言い出すのかわかったもんじゃない」
類はそのまま和モダンの内装の部屋の奥にあるベットの方へと向かった
類「……ヒノキの香りかな?」
類は部屋の香りに気づき、そのままベットへと寝ころんだ
類「……」
類は未来の携帯を取り出し電源ボタンを押す
類「……記憶が戻った司と過ごす牧野と、もしも俺と付き合うことになった牧野は、どっちが幸せなんだろうな」
類は携帯を胸の前に伏せる、そしてそのまま、眠ってしまうのだった
類も、色々と疲れがでていた
本当にここが過去なのか、思考が喧嘩をし、類も休まる暇などなかったのだ
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つくし「……花沢類!」
類「ん…?」
つくしが大きな声で類の名前を呼ぶ、目覚めたら浴衣姿でシャンプーの香りがするつくしが目の前にいた
類「あ…」
寝ぼけていたが瞬時に、出来事を思い出す類
類「ごめん、寝てた」
つくし「ううん、起こしてごめんね。あの、ご飯どうする?今日は何時に帰るの?」
類は窓の外をみる、外はもうすっかり暗く、時刻は夜だった
類「ん?今日牧野時間あるんでしょ?泊りのつもりだったけど」
類はあくびをしながらあっけらかんとそう告げた
つくし「と!泊り?!」
鈍感なつくしは、今やっとこの状況を理解する
つくし「ちょっと温泉入って帰るだけかと…」
類「明日、バイトある?」
つくし「……道明寺があんな状態だから、少し休みもらってたの」
類「そう、なら大丈夫だね」
つくし「……」
つくしが困った表情でうつむいている、その表情をみて類は思う
類の心の声(いつもいつも、牧野のこの表情を見てる気がする、困ったような泣き出しそうな……)
類の心が、少し切なさを感じた
類「………やっぱり俺じゃ、笑顔にはさせれないのかな」
類はそうつぶやきながら、悲しそうな瞳でつくしの頭を撫でる
つくし「え?!そ、そんなことないよ?!花沢類は優しいし!頼りになるし!気遣いもできるし!!!あんな野蛮人とは比べ物にならない…!!」
類は途中でつくしの口を手で塞いだ
類「そういうこと、言わせてごめんね。俺は牧野に無理させてばっかりだ、ほんっと…司には敵わない」
類はこういう状況になって改めて、司の前と自分の前でのつくしの態度の違いを実感する
つくし「な、なにいってんの?!道明寺に敵わないって…花沢類のほうが素敵だし、優しいし…それに…」
つくしが必死そうにそう言ってくれるほど、類はさみしく切ない気持ちになった
類「……だって牧野は、司の方が好きなんだよね?」
ずるく意地悪なことを言った、類は言った後すぐに後悔をした、つくしの反応は予想通り
つくし「……あんな野蛮人!!す、好きじゃないよ!私のことだけ!忘れちゃうし…婚約者できちゃうし…あげく付き合っちゃうし…何考えてるんだかわかんない」
つくしの眼からぼろぼろと涙がこぼれ落ちる
つくし「あ…」
あわてて浴衣の袖で涙をぬぐうつくし
類はふわっと優しくつくしを抱き寄せた
類「………いいよ、そのままたくさん泣いて」
つくし「…………っ……」
類の優しい声に我慢できずに大きな涙がぼろぼろと流れ出す
この日牧野つくしは、はじめて人前で声が枯れるまで泣いた
そして、やはり花沢類というべきか、何もないまま、二人で語り合っただけで、初お泊りの夜が明けてしまうのだった
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